「本当に危ない」道路埋め尽くす観光客に住民ため息…畑侵入され怒る農家も―北海道美瑛町の“オーバーツーリズム”
我慢も限界に 「シラカバ並木」苦渋の伐採
十勝岳の麓に広がる美瑛町は雄大な自然と人の営みが織りなす北海道有数の観光地。夏が最盛期で、色合いの異なる畑が連なる「パッチワークの丘」などの農村風景で人々を魅了する。
景観の多くは作られたものではなく、発見されて人が集まるようになった。いずれも農家や地権者の好意でなり立っている。
広さは東京23区の面積に匹敵する約680平方キロメートルだが、人口は約9300人。そこに250倍を超える238万人の観光客が押し寄せる。コロナ禍だった2021年の106万人の倍以上だ。
今年1月、農家らの好意は限界に達した。「クリスマスツリーの木」から12キロ離れた、映えスポットとして人気の「セブンスターの木」から道路を挟んだ町道沿い。
130メートルにわたる38本のシラカバ並木が1月14日午前、1本残らず伐採された。根元から切られた長さ15メートルほどのシラカバが、横たわっていた。
「セブンスターの木」は1976年にたばこのパッケージに採用され、隣接するシラカバ並木も人気の観光スポットとなっていた。
なぜ、切り倒されてしまったのか――。
「観光客が私有地の農地に侵入したり、車道をふさいで写真を撮影したりし、マナー違反や交通渋滞が大きな問題になっていた。
高さ15メートルに成長したシラカバが日陰をつくり、農作物の生育に影響を及ぼしていたこともあった」(美瑛町農林課 平間克哉さん)
周辺農家でつくる住民団体は去年12月上旬、シラカバ並木の伐採を町に要望。町は基幹産業の農業に影響があることから「伐採はやむを得ない」と判断した。
「私有地であり、農家のなりわいに悪影響を及ぼしているなら残してとは言えない。やむをえないけど、きれいだったので残念」。美瑛町の男性は複雑な表情を浮かべた。
畑侵入し記念撮影 「非常に迷惑」と怒る農家
迷惑行為は10年以上前からあった。そして、めずらしくない。去年12月22日、「セブンスターの木」付近を取材していると、畑に何者かが侵入した足跡があった。4カ国語で立ち入り禁止と書かれた看板の真横を、無視するかのようにすり抜けていた。
観光スポットの近くで小麦やジャガイモを栽培している農家の大西智貴さん(40)は怒りをあらわにする。
「足跡をたよりに、ここは誰か入っているからいいのだと、ほかの観光客もどんどん入ってしまう。農地に入られるのは非常に迷惑」
過去には畑でピクニックをしたり、牧草ロールの上で遊んで写真を撮ったり、車で侵入したりする観光客もいたという。