ヒントは「沈没船」から? バーテンダーが手掛ける海洋熟成酒「北海道海洋熟成」本間一慶さん #BOSSTALK
「うめぇじゃねぇか」の一声で奮起 北海道の海を「会社」に
――海洋熟成はどんな経緯で始めましたか?
2010年頃に海外の沈没船から出たお酒がオークションで出回り、バーテンダーとして飲みたいと思いました。2014、15年頃には東京の先輩にお酒を海中に沈める企画に誘われました。南伊豆(静岡県)で、半年ほど熟成させると、すごく味が変化し、南伊豆でできるなら北海道でもできると思い、好奇心で始めました。ただ、海に行って話をしても、サンプルがなく、漁師さんはピンと来なかったですね。それで漁師さんの好きな日本酒を1年間、沈めて実験し、一緒に飲んだら「うめぇじゃねぇか」と分かってもらえました。海洋熟成には(国土交通省と国税庁の)法的な許可が必要ですが、漁師さんのOKをもらわなければできません。
――事業はトントン拍子に進みましたか?
最初は研究して本当に味が変わるかの検証をしましたが、コロナ禍でバーの営業ができなくなり、収入がゼロになりました。海底熟成の研究を仕事にしようと、2020年に法人化したのが北海道海洋熟成です。知内町、木古内町(いすれも渡島管内)で、ふるさと納税の返礼品に採用されて、自信につながりました。沈めたお酒と地元の魚介類のペアリングを研究しています。返礼品はお酒と魚介類とセットにしているので、ペアリング性をよく調べて提案しています。北海道は三つの海に囲まれて(水流などの)特性がそれぞれ違います。お酒を沈める海を徐々に広げ、最終的には北海道の海をうちの「会社」にしたいと思っています。
――三つの海を制すとは海賊みたいですね。
地域で特産品が違い、それに合うお酒とかを探すのは楽しい。地域貢献として、町のお酒になり、獲れた魚介類を売るきっかけになればと考えています。
北海道の海の恵みに感謝 海を豊かにする恩返し
――今、力を注がれていることは。
海底セラーサービスです。お客様からお酒を預かって海中に沈め、1年後に届けるサービスです。海底の監視システムを活用し、海の中の様子をスマートフォンで(リアルタイムで)見ることができます。
――その事業を行う人は全国にいますか? 唯一ですか?
まだいないですね。
――北海道で海洋熟成に取り組む意味は?
三つの海によって味が変化します。保管環境では水温が低いのが一つのメリット。道外の海底熟成は台風の直撃で半年ぐらいしかできません。北海道は台風の勢力が衰えるので1年間、沈めることができます。北海道の良さですね。
――事業の未来を教えてください。
海底熟成の施設は漁礁化します。エビやカニと、魚が棲み着き、施設を増やすことで海を豊かにします。ブルーカーボン(海の生態系が吸収・貯留する炭素)の取り組みとして海藻が生える仕掛けもしています。沈めるお酒の面積が増えれば、海藻が生える面積も増え、海が豊かになります。漁師さんへの恩返しです。